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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)2610号 判決 1980年10月16日

原告 古川隆

右訴訟代理人弁護士 長塚安幸

同 砂川義信

同 吉森照夫

同 浅井洋

被告 協和企興株式会社

右代表者代表取締役 武石晃二

被告 三祐興業株式会社

右代表者代表取締役 稀玉敏夫

右訴訟代理人弁護士 湯坐一衛

同 湯坐博子

主文

一  被告らは原告に対し、各自金五四四万九五〇〇円及びこれに対する昭和五三年三月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は原告の勝訴部分に限り原告が被告らに対し、それぞれ金一五〇万円の担保をたてたときはその被告に対し仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、各自金六九九万一〇〇〇円及びこれに対する昭和五三年三月二九日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告両名の請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、昭和五一年五月六日頃別紙物件目録記載の土地、建物(以下、本件土地、本件建物という)を被告三祐興業株式会社(以下被告三祐興業という)の仲介により被告協和企興株式会社(以下被告協和企興という)から左記条件で買受けた(以下本件売買契約という)。

(一) 売買代金 五三〇〇万円

(二) 手付金 二〇〇万円、但し、手付金は売買代金の一部に充当する。

(三) 代金支払時期 残金は所有権移転登記手続完了と同時に支払う。

(四) 引渡並びに所有権移転時期 昭和五一年五月一五日

(五) 特約事項 売主はボイラーは完全な機能の下に(冷暖房共)引渡し、雨漏、漏電、水道、ガス、浄化槽設備、電気設備、錠等の破損箇所は補修する。

2  右売買契約の際、被告三祐興業は、原告に対し、売主である被告協和企興が前項(五)の特約(以下、本件特約という)に基づき負担する補修業務を併存的に引受けることを約した。

3(一)  被告協和企興、同三祐興業は原告に対し、本件特約に基づく補修を昭和五一年五月一五日までに履行することを約した。ところが被告両名は、右義務を右期日までに履行しなかったので、原告は右両名名に対し、同年六月七日までに履行するよう催告したが、被告両名は右期日を経過するも補修をしなかった。その後も原告の再三にわたる請求にも拘らず、被告らは右補修業務を履行しない。よって、原告は被告ら両名に対し、本件特約に基づく補修に代えて右補修工事に要する費用を損害賠償として請求する。

(二) 仮に右主張が認められないとしても、同年六月七日、原告と被告協和企興の当時の代表者貝原恒憲と、本件補修工事を原告がなした場合には、同被告においてその費用を支払う旨約した。また被告三祐興業も右の場合には、第2項の約定通り被告協和企興とともに右費用を支払う旨承諾した。

4  原告は、昭和五一年六月七日本件建物の引渡しを受けたが、同建物には左記のように本件特約に該当する補修すべき瑕疵が存し、右補修に要する費用は合計六九九万一〇〇〇円である。

(一) ボイラーは、完全な機能のもとに(冷暖房共)引渡す旨の約定違反による損害

(1) 一階のボイラー点火調整 三万五〇〇〇円、昭和五一年八月補修済み

(2) 冷却塔交換 四三万円、一、二年放置されたことにより、冷房能力がなく、その機能をはたせない。昭和五一年八月補修済み

(3) 加湿機交換 三三万円、加湿機が欠落もしくは十分に作動しなかった。昭和五一年八月補修済み

(4) 膨張タンク交換 一一万円、屋上膨張タンクに錆が出て、モーターが焼切れする等その機能を十分果たせず、また安全性にも欠けた。昭和五一年八月補修済み

(二) 雨漏、水漏等の破損についての補修に要する費用

(1) 煙突天板取付工事 五万円、煙突上部についている雨よけ天板が欠落しているため、雨水が同煙突内に吹込み、階段廻りのクロスのしみの発生原因となっていた。昭和五一年七月補修済み

(2) 屋上ペントハウス防水吹付工事 八万円、屋上のペントハウスの防水が不完全なため雨水がしみこみ、しみ等の原因となっている。昭和五一年七月補修済み

(3) 食堂及び寝室のファンコイル水漏補修工事 三万円、食堂部分については、ジョイントパッキングの破損、オーバーフローした水の受皿の欠落、配管に巻いてある石綿が一部とれていた。また寝室部分については、配管勾配が逆になっていたため、ファンコイル自体が斜めに取付けられていた。そのため、受皿が役割を果たさず、オーバーフローした水が漏れていた。その補修に要する費用。昭和五一年八月上旬頃補修済み

(4) 寝室クロス補修 四万五〇〇〇円、右クロスは原告が入居する前原告費用で一回張替えたが、入居後前記(3)の水漏れのため汚損したもの再度張替えた。

(5) 階段クロス補修工事 二万円、屋上、三階、二階部分の階段クロスは、原告の費用で一回張替えたが、冷房用配管の結露もしくは雨漏のため再度汚損したため、張替えた。

(6) 階段廻り雨漏、点検補修工事 二四一万四〇〇〇円、前記(二)(2)工事をしても、なお雨漏が発生するため、再度ペントハウス下部の壁面を破り完全な防水処置をするための工事。

(7) 車庫天井結露点検補修工事 四〇万九〇〇〇円、車庫天井部分に大量のしみ汚損がみられるが、この原因である冷房管の結露を防止、補修する工事。

(8) 車庫天井新装板貼工事 一一三万五〇〇〇円、前記補修工事によって生ずる天井板の修復工事。

(9) 三階和室冷房機器漏水補修工事 二五万円、設置不良及び手入不良のため機器の機能が弱体化しているため、そのオーバーホール及び補修工事。

(10) 三階床補修及びカーペット補修工事 五万六〇〇〇円、冷房機器設置不良及び手入不良によって生じた漏れによる床部汚損を回復するための床板補修及びカーペット張替工事

(11) 二階天井クロス及びベニヤ張替工事 一三万円、前記冷房機器漏水による二階和室天井、壁の汚損部分の張替工事

(12) 吹抜部天井工事足場組払工事 四万五〇〇〇円、前記冷房機器漏水による水漏汚損部分(食堂部分)補修工事のための天井ベニヤ張足場組払工事

(13) 冷房機器収納部壁面一部補修工事 一二万五〇〇〇円、二階和室及び食堂の壁面埋込型の冷房機器水漏によるしみが出るため、右機器の点検補修に伴う壁面補修回復工事

(14) 漏水点検用アルミ点検孔部品取付工事五ヶ所 四万円、天井裏を通る冷房用配管及び機器を随時点検する点検孔用アルミ枠取付工事

(15) 家事室冷房機器漏水補修工事 二五万円、家事室内の冷房機器の設置不良及び手入不良による漏水防止と機能を回復するためのオーバーホール及び補修工事

(16) 一階書斎の天井補修工事 一三万円、前記冷房機器の不良によって生じた汚損部分の補修工事

(17) 運搬費 三万円、前記各工事に要する材料機械類の運搬費用

(18) 接続及び結露防止剤吹付工事 三二万六〇〇〇円、冷房用配管の一部接続不良箇所の補修と同配管部分に対する結露防止用剤吹付施工工事

(19) 右工事に要する吹付コンプレッサー等の機械損料 五万円、

(20) 現場経費 二〇万円、(9)~(16)(18)の工事に伴う現場監督及び連絡交通費等

(21) 消耗雑費及び補足材 三万円、(9)~(16)(18)の工事に伴う消耗品等による損料と見積外の補促材料の実費費用等

(三) 水道の破損についての補修に要する費用

揚水ポンプオーバホール 五万円、揚水ポンプが作動しなかったのでオーバホールをした。昭和五一年八月補修済み。

(四) 浄化槽設備の点検、補修に要する費用

給排水管補修 三万円、トイレ及び浄化槽の給水管、蛇口の補修、排水管の勾配直し。昭和五一年八月補修済み(但し、勾配は公共排水路と勾配の関係で修繕できなかった。)。

(五) 漏電等の破損について補修に要する費用

電気設備補修 四万五〇〇〇円、スイッチバネ不良、電球不良品、配線一部断線があったためその修理。昭和五一年七月補修済み。

(六) 鍵の点検、補修に要する費用

(1) 鉄扉錠補修 三万五〇〇〇円、外部鉄扉錠が錆のため作動しないので新らたに交換取付けた。昭和五一年七月補修済み。

(2) 各室扉及びフラッシュ戸の錠点検及び補修 三万円、各錠の錆つきによる施錠不能になっていたので、新たに錠を交換し補修した。昭和五一年七月補修済み。

(七) その他

(1) 厨房ファン側枝つまみ 一万六〇〇〇円、昭和五一年七月補修済み。

(2) 各室扉建具調整 三万五〇〇〇円、昭和五一年七月補修済み。

5  よって原告は被告らに対し、各自本件特約に基く補修に代る損害賠償として六九九万一〇〇〇円及びこれに対する本件請求拡張の準備書面が送達された日の翌日である昭和五三年三月二九日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による金員の支払を求める。

二  請求の原因に対する答弁

(被告協和企興)

1 請求原因1の事実は否認する。

本件建物の真実の所有者は訴外金井文七(以下訴外金井という)である。被告協和企興は、右金井から、転売するまでの間登記名義をかしてくれと依頼され、登記簿上本件建物の所有名義人となっていたにすぎない。

2 同2の事実は不知。

3 同3(一)(二)の事実は否認する。

4 同4の事実は不知。

5 同5は争う。

(被告三祐興業)

1 請求原因1(一)ないし(四)の事実は認める。(五)の特約のうち、売主である被告協和企興は、ボイラーは完全な機能の下(冷暖房共)に引渡し、雨漏、水道、ガス、漏電の破損があるときはこれを補修する旨の特約があることは認めるが、その余の事実は否認する。

2 同2の事実は否認する。被告三祐興業は売買の仲介人として仲介業務を行ったにすぎない。

3 同3(一)(二)の事実は否認する。

4 同4の事実は不知。

原告主張の損害賠償請求の基礎である補修工事特に請求原因4(一)(2)の冷却塔交換工事及び未だ補修工事を行っていない(二)(6)ないし(21)の各工事は担保責任としての補修の範囲を越えるものである。

5 同5は争う。

三  抗弁

仮りに被告三祐興業が補修義務を負担したとしても、被告三祐興業は単なる仲介者として、契約締結を媒介する業務の附随業務として責任を負ったに過ぎず、売主と同様の担保責任を追求することは権利の濫用である。

四  抗弁に対する答弁

被告三祐興業が本件売買契約の仲介者であることは認め、その余の主張は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  被告三祐興業の仲介により原告と被告協和企興が本件売買契約(但し、請求原因1(五)の本件特約事項を除く)を締結したことは、原告と被告三祐興業間では争いがなく、原告と被告協和企興間では、《証拠省略》により認めることができ、右認定に反する証拠はない。

二  そこで右売買契約の本件特約の存否及びその内容につき検討する。

1  原告と被告三祐興業間では、売主はボイラーは完全なる機能のもとに(冷暖房共)引渡す。雨漏、水道、ガス、漏電の破損あるときはこれを補修する旨の特約が存することは当事者間に争いがない。

2  《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

(一)  原告は、被告三祐興業の仲介により本件土地・建物を被告協和企興から買受けるにあたり、買受後改築工事を依頼する予定であった株式会社西武百貨店(以下、訴外西武百貨店という)の社員渡部光(以下訴外渡部という)を同行し、本件建物を七、八回下見をした。

(二)  本件建物は、建築後約六年を経過した四階建の鉄筋コンクリート造で本件売買当時空家であったため相当荒れており、一階の車庫の天井、一階から二階に上る階段の壁面、二階食堂の床、二階から三階に上る階段周りの床及び壁、三階の寝室の天井等に雨漏もしくは冷房の配管の結露によるものと思われるしみが相当大量についていた。また契約締結当時動力源が入っていなかったので、ボイラーが正常に作動するかどうか、冷暖房の機能が正常に働くかどうかを確認することができず、また前の居住者の時代に浄化槽が四ヶ月ごとにあふれ正常に作動していなかったこともあり、原告は右の各点につき不安に思っていた。一般に空調関係の設備の耐用年数は約七年位である。

(三)  原告は本件売買契約をするにあたり、右の点につき訴外渡部から助言を受け、契約を締結する約一週間前に、本件特約事項を本件売買契約に入れるように被告三祐興業の担当者鈴木忠(以下訴外鈴木という)に対し書面で要望し、訴外鈴木は、右原告の要望を受け、本件売買契約書の特約事項第一四条として、「下記事項を売主の責任において行う事とする。当該物件に関する土地の測量図、建物に於ける設計図。ボイラーは完全なる機能のもとに(冷暖房共)引渡す。雨漏、水道、ガス、漏電等の破損ある時は、これを補修する(水道、ガス、冷暖房等の配置図並びに修理店名)又修理人名を詳知する。浄化槽設備。キイの確認。動力の引込及び動力の仕様書」なる文言を記入した。そこで訴外鈴木は、右事項が記入された契約書を被告協和企興の担当者である訴外金井に示し、右原告の要望を伝えたところ、右金井は、一たん被告協和企興に持ち帰り相談した結果これを承諾し、契約書の売渡人欄に署名、捺印し、右契約書を訴外鈴木に交付した。

3  そこで本件特約の趣旨につき検討する。

(一)  原告は、前記「ボイラーは完全なる機能のもとに」(冷暖房共)引渡す。」なる旨の記載は、冷暖房については、ボイラーに関してだけではなく、各部屋に設置されている冷暖房設備が正常な機能を有し使用できる状態にするという趣旨を含むものであると主張する。《証拠省略》によれば、前記のように原告は、本件売買契約締結時に動力源が入っていなかったので冷暖房設備等の試運転ができず、設備が完全な機能を有するのか否かについて不安を持ち、右設備が完全な機能を有することを保証させる意味で右特約文言をいれることを希望したものであり、訴外鈴木も右希望を了承したうえで右特約文言を記入したものであることが認められる。そして右特約が右趣旨であることは、専任取引主任者である訴外鈴木から当然売主である被告協和企興の担当者である訴外金井に説明されていると思われることを考えると、右特約は原告主張の如き趣旨であると認められる。そして冷暖房設備を完全な機能を有する状態にするということは、冷暖房用の配管の防露設備が不十分なため結露が生じ、水漏が発生する場合にこれを補修することも含まれると解される。

(二)  次に原告は、前記「浄化槽設備。キイの確認。」なる旨の記載は、浄化槽設備の給排水管補修工事をすること及び本件建物の各扉、室の鍵を点検し、こわれていた場合には取替あるいは補修工事をする趣旨であると主張し、原告本人は右主張に副う供述をするが、右供述は《証拠省略》に照らし信用できないばかりか、前記のように右特約には「浄化槽設備。キイの確認。」と記載されているのみであり、本件特約は、原告と被告協和企興とが直接折衝した結果挿入されたものではなく、原告の申入れにより訴外鈴木が右特約を契約書に記入し、被告協和企興が、訴外鈴木の説明を聞いた上で検討し、承認したものであることを考えると、右特約の文言は、原告主張の如き趣旨であるとは認められない。

(三)  以上によれば、被告協和企興は原告に対し、①ボイラーを含め冷暖房設備が正常の機能を欠くとき②雨漏がするとき、③水道設備に欠陥のあるとき、④漏電の危険のあるときはいずれもこれを補修することを約したと認められる(本件特約のその余の事項については、本件請求と関係がないので判断しない。)。

三  そこで、次に被告三祐興業が、被告協和企興が原告に対し負担している本件特約に基づく補修義務を併存的に引き受けることを約したか否かにつき検討する。

1  《証拠省略》によれば、

(一)  被告協和企興は、前記認定二2(三)の如く、本件契約書に捺印した際、同契約書の冒頭部分に「(特約一四条は三祐興業株式会社と金井文七氏とで責任を持って解決致します。)」なる文言を記入した。被告三祐興業は、右文言が記入されたことにつき特に異議を述べ、あるいは問い質すようなことはせず、右契約書に署名、捺印するように原告に提示した。そして原告は右契約書の買受人欄に署名、捺印をした。

(二)  本件特約に基づく補修は、当初昭和五一年五月一五日の代金支払時までに完了する約束であったが、動力源が入らず冷暖房設備等の試運転ができなかったため補修工事ができず、また原告の資金繰りの関係もあり、右補修時期及び代金決済期日は昭和五二年六月七日に変更された。そして、右日時に大光相互銀行新宿支店において、原告、被告協和企興側は当時の代表者貝原恒憲、担当者訴外金井外一名、被告三祐興業の担当者訴外鈴木の各関係者が立会って代金決済ということになったが、その席上原告から本件特約に基づく補修工事がなされていないと異議が出された。そこで、できる限り速やかに本件補修工事をすることにして、後日右補修に要する費用にあてるため右代金のうち被告協和企興名義で一〇〇万円を同銀行に預託することにし、本件売買代金は完済された。

(三)  被告三祐興業は、訴外株式会社サトー設備(以下訴外サトー設備という)に本件建物の空調設備関係の点検補修工事を依頼し、同会社は、昭和五一年六月八日、九日、一五日と三日間補修工事をし、被告三祐興業は同年七月二三日訴外サトー設備に対し右補修工事代金一七万七五九〇円を支払った。

(四)  訴外サトー設備が施行した前記補修工事は甚だ不十分であったので、その後も原告は被告協和企興に対し、再三本件特約に基づく補修工事をなすように請求した。

ことが各認められ(る。)《証拠判断省略》

2  以上によれば、前記「(特約一四条は三祐興業株式会社と金井文七氏とで責任を持って解決致します。)」なる文言は、本件特約事項についての補修工事は、第一次的には売主である被告協和企興の責任で行うこととし、被告三祐興業は被告協和企興に対し督促する等して、同被告をして速かに補修工事を遂行させることにあると解されるが、売主側で右補修工事を怠ったような場合には、最終的には被告三祐興業の責任と負担において本件特約に基づく補修工事を完成させる責任を負う旨を合意したものと解するを相当とする。

四  そして前記のように本件特約に基づく補修工事は、当初の約定であった昭和五一年五月一五日にできなかったため、同年六月七日迄に延期されたがそれでもなされず、その後も原告の再三にわたる請求にも拘らず、右補修工事がなされなかったのであるから、原告は右補修に代わる損害賠償を請求することができる。

五  そこで原告の被った損害及びその額について検討する。

1  (ボイラー等冷暖房設備関係の補修)

(一)  《証拠省略》によれば、原告の入居後一週間か一〇日位で①屋上のボイラーが未調整で点火しないこと、②屋上の冷却塔の冷却能力が甚だ不十分で、補修工事ではその機能を回復することができないこと、③屋上の膨張タンクのモーターが焼切れする等その機能が十分でなくまた安全性に欠け、補修工事ではその機能を回復することができないこと、④加湿機が欠落していることが各判明した。また右と同じ頃⑤二階食堂及び三階寝室の冷房装置のファンコイルから水漏が生じたこと、⑥右寝室のファンコイルからの水漏のため、原告が一度張替えた寝室クロスが汚損したこと、⑦冷却用配管の防露設備が不十分なため結露が生じ、そのため原告が一度張替えた一階から二階、二階から三階の階段クロスが汚損したこと、そこで原告は、昭和五一年八月頃訴外西武百貨店に右各補修工事を依頼し、訴外西武百貨店は、①につき点火調整補修工事(代金三万五〇〇〇円)、②③につき冷却塔及び膨張タンクの交換工事(②代金四三万円、③代金一一万円)、④につき加湿機新規設置工事(代金三三万円)、⑤につき水漏補修工事(代金三万円)、⑥⑦クロス張替工事(⑥代金四万五〇〇〇円、⑦代金二万円)の各工事をなし、原告は右代金合計一〇〇万円を同年一〇月末頃支払った、ことが各認められ、右認定に反する証拠はない。

(二)  《証拠省略》によれば、本件売買契約当時から一階車庫の天井に汚水によるしみが相当大量に出ていたこと、そして、その原因は冷暖房用の配管の防露設備が不十分なため生ずる結露によるものと考えられること、原告は、右防露設備をするために、訴外西武百貨店に見積をさせたところ、結露点検補修工事として四〇万九〇〇〇円、及び車庫天井新装板貼工事として一一三万五〇〇〇円の費用を要するとの回答を得たこと、が認められる。右認定に反する証拠はない。

(三)  《証拠省略》によれば、原告の入居後である昭和五一年八月中旬頃、①三階和室の冷房機器から水漏事故が発生し、その原因は、ファンコイル巻が不十分で、且つ手入不良により全体的に機器の能力が弱体化したためであること、②右水漏事故のため三階床及びカーペット、③二階和室の天井ベニヤ、天井クロス、④二階食堂の天井ベニヤが各汚損したこと、右と同じ頃⑤二階和室及び食堂にある壁面埋込タイプ冷房機の配管の防露設備が不十分なため結露が生じ壁にしみが発生したこと、原告の入居前に試運転をした際、⑥二階家事室の冷房機器が、冷房能力が不十分で水漏することが発見されたこと、⑦右水漏事故のため一階書斎天井にしみが生じたこと、本件契約当時から⑧ファンコイルが正常に作動しているかどうかを検査する点検用アルミ点検孔が五ヶ所欠落していたこと、⑨冷房用配管の一部に接続不良個所があり、また配管部分に錆が出たり、コイル巻がとれてしまっている部分があったこと、そこで原告は、訴外西武百貨店に右各補修工事の見積をさせたところ、①につきオーバーホール及び補修工事として二五万円、②につき床板補修及びカーペット張替工事として五万六〇〇〇円、③につき天板ベニヤ及びクロス張替工事として一三万円、④につき天井ベニヤ張替工事として四万五〇〇〇円、⑤につき点検補修及び壁面補修工事として一二万五〇〇〇円 ⑥につきオーバーホール及び補修工事として二五万円、⑦につき天井補修工事として一三万円、⑧につき点検用アルミ枠取付工事として四万円、⑨につき接続及び結露防止剤吹付工事(右工事に使用する吹付コンプレッサー等の機械損料も含む)として三七万六〇〇〇円、及び①ないし⑦工事に要する材料、機械類の運搬費用として三万円、①ないし⑨工事の現場経費として二〇万円、消耗雑費及び補足材として三万円の合計一六六万二〇〇〇円の費用を要する旨の回答を得たことが、各認められ、右認定に反する証拠はない。

(四)  次に(一)ないし(三)の各工事に要する費用が本件損害とみれるかどうか検討する。

(1) まず(一)工事につきみるに、被告三祐興業は、屋上冷却塔及び膨張タンクについて交換工事をしたことは、過剰、不必要な工事であり、且つ補修の範囲を越えた工事である旨主張するが、前記認定のように右両設備については、補修工事ではその機能を十分に回復することができず、右両設備を交換する必要があったことが認められ、また本件特約は、右のような場合には交換工事をすることも含まれていると解される。

次に(二)工事につきみるに冷暖房用の配管結露による水漏を防止するために四〇万九〇〇〇円の費用を要するものと認められるが、天井新装板貼工事については、前記のように本件売買契約当時から本件車庫の天井はしみが相当大量につき汚損されていたものであるから、原告の入居当時しみ等発生する原因が解消されていたとすれば、当然原告の負担において右工事をする必要があったものであり、本来右工事費用は原告が負担すべきものである(本件全証拠によるも、被告らが本件特約の義務の履行を遅延したことにより右工事費用が余計にかかるものとは認められない。)。従って右工事費用を本件損害額とみるのは相当ではない。

(五)  以上によれば、前記(一)工事、(二)のうちの結露点検補修工事及び(三)工事は本件特約に基づく補修工事(前記二3(三)①に該当)に含まれ、その費用は(一)工事につき合計一〇〇万円、(二)工事につき四〇万九〇〇〇円、(三)工事につき合計一六六万二〇〇〇円と認められる。もっとも(三)工事のうち、②ないし④工事、⑦工事については、右各工事をすることにより、約六年間使用した本件建物の当該部分及び施設が新装されることになり、建物所有者である原告は、建物価格等が上昇したことにより利益を受けるものであるから、衡平の見地から右利益額を損害額から控除するのを相当とする。従って、右見地から一切の事情を考慮して、②ないし④工事、⑦工事の見積額の五割をもって右損害とみるのを相当とし、右五割を控除すると、(三)工事に要する費用は一四八万一五〇〇円となる。よって右総合計二八九万〇五〇〇円は被告らの負担すべき損害額である。

2  (雨漏関係の補修)

(一)  《証拠省略》によると、本件売買当時から①配管及びボイラーの熱抜用の煙突の上部についている雨よけの天板が欠落していたため、雨水が吹込み階段廻りのクロスにしみが生じる一つの原因となっていたこと、②屋上ペントハウスに亀裂がはいっていたこと、原告から右各補修工事の依頼を受けた訴外西武百貨店は、原告が入居する前に①につき天板取付工事(代金五万円)、②につき防水吹付工事(代金八万円)を行ない、原告は右代金合計一三万円を支払ったことが各認められる。右認定に反する証拠はない。

(二)  《証拠省略》によると、前記(一)②の工事をしたにも拘らず原告の入居後も雨が強く降ると三階から四階に上る階段等の壁の内側に雨水がたまること、右原因は、本件売買当時から存在していたと思われること、原告が訴外西武百貨店に右補修工事を見積らせたところ、階段上部屋上一部斫り工事、防水工事及び保護モルタル工事等合計二四一万四〇〇〇円を要するとの回答を得たことが各認められる。右認定に反する証拠はない。

(三)  そこで(一)(二)の各工事に要する費用が本件損害とみれるかどうか検討する。

(一)②の屋上ペントハウスの防水工事については、結局右工事では所期の目的を達成することはできず、再度大規模な(二)工事を行う必要があるとして、原告は右(二)工事に要する費用を本件損害として請求しているのであるから、右一②工事については、原告の見込み違いにより余計な工事をし費用をかけたことになる。従って原告は被告らに対し、右工事に要する費用を損害として請求することはできないと解すべきである。

(四)  以上によれば、前記(一)①、(二)工事は本件特約に基づく補修工事(前記二3(三)②に該当)に含まれ、その費用の合計は二四六万四〇〇〇円であると認められる。従って右金員は被告らの負担すべき損害額である。

3  (水道補修)

(一)  《証拠省略》によれば、原告の入居後揚水ポンプが手入不良のため正常に作動せず、断水するようになったこと、そこで原告は昭和五一年八月頃訴外西武百貨店に右補修工事を依頼し、訴外会社は揚水ポンプを補修し、原告は右補修代金五万円を支払ったことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(二)  以上によれば右工事は本件特約に基づく補修工事(前記二3(三)③に該当)と認められ右費用五万円は、被告らが負担すべき損害である。

4  (漏電補修)

(一)  《証拠省略》によれば、原告は、昭和五一年八月頃、訴外西武百貨店に本件建物の電気配線整備工事を依頼し、原告は右工事代金として四万五〇〇〇円を支払ったことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(二)  以上によれば、右工事は本件特約に基づく補修工事(前記二(3)(三)④に該当)と認められ、右費用四万五〇〇〇円は、被告らが負担すべき損害である。

5  原告は、①浄化槽の給排水管補修に要した費用三万円及び②鉄扉錠補修に要した費用三万五〇〇〇円、③各室及び鉄扉、錠点検、補修に要した費用三万円④厨房ファン側板及びツマミに要した費用一万六〇〇〇円⑤各室扉建具調整に要した費用三万五〇〇〇円はいずれも被告らの負担すべき損害であると主張するが、①ないし③工事はいずれも本件特約によりなすべき補修工事に含まれないことは前記二3(二)の通りであり、④⑤の各工事が右補修工事に含まれないことは明らかである。よって原告の右各主張は失当である。

六  次に被告三祐興業の抗弁について判断する。

被告三祐興業が本件売買契約の仲介人であることは当事者間に争いがないが、前記三認定のように被告三祐興業は売主である被告協和企興が負担している本件特約に基づく補修義務を併存的に引受けたものであり、原告が右義務の履行を求めることは当然の権利の行使であり、特段の事情のない限り何等権利の濫用にあたらないことは明らかである。右特段の事情について主張・立証のない本件においては、被告三祐興業の右抗弁は理由がない。

七1  以上によれば、本件特約に基づく補修工事に代わる損害として被告らが原告に対し負担する賠償金は、前記五1(五)の二八九万〇五〇〇円、同2(四)の二四六万四〇〇〇円、同3(二)の五万円、同4の四万五〇〇〇円の合計五四四万九五〇〇円である。

2  よって原告の被告らに対する本訴請求中、五四四万九五〇〇円及びこれに対する本件請求拡張の準備書面(昭和五三年三月二五日付)が送達された翌日である昭和五三年三月二九日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言については同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 満田忠彦)

<以下省略>

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